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走馬灯株式会社 Disc.10 第10話 最終話 黒瀬 由香 ネタバレ 芦名星 [走馬灯株式会社]

走馬灯株式会社 Disc.10 第10話 最終話 黒瀬 由香(27)

走馬灯株式会社で神沼(香椎由宇)は、
客が来店するのをエレベータの扉前で待っていた。



「はい。今近くに来ました。これから向かいます。」
「わかった。でも、映像は見るなよ。
走馬灯っていうのは普通、死ぬ前に見るもんだ。
もし本当に自分の人生を見たら、きっと戻れなくなる。
DVDだけ持ってこい!」

かなり作りの古いアパートの2階。
鉄でできた階段は、靴音を高らかと響かせていた。
電話で話しながら階段を上る女性は、男性から指示を受ける。
指示された場所に行くと、そこは“走馬灯株式会社”
ネームプレートを見ながら少しためらい、扉に手をかけた・・・



走馬灯現象・・死の間際に見る記憶映像。
それが今観られるとしたら・・・・・
走馬灯株式会社



Disc.10 黒瀬 由香(27)

部屋に通された黒瀬由香(芦名星)は、ディスクの使い方のレクチャーを受けていた。
目の前に並べられたのは“黒瀬由香Vol.00~27”

神沼はディスクの使い方を話していたが、由香は聞いていなかった。
それは、ディスクを再生させるつもりは全くなかったから・・
神沼は“黒瀬由香Vol.00”をセットして、

「それでは黒瀬由香さま。あなたの27年の人生を、心ゆくまで顧みてください。」


神沼は声をかけ部屋から出て行こうとしたとき、由香は映像を止めた。

「神沼さん・・でしたっけ?
できればわたしのじゃなく、あなたの人生を見せて欲しいんですけど。」

由香は走馬灯株式会社のライブラリーにある「神沼」のディスクを見たがった。
そこに映るものを見てみたい・・・これはただの好奇心。
神沼は何も答えずに、ただそこに立っていた。


出来ないことには何も言わない方針何かもしれない・・
由香は質問を変えてみる。

「じゃあ、走馬灯株式会社について教えてください。
私、雑誌社に勤めてまして・・・」

真実を語ってもらうには、まず自分の正体を名乗るのが一番だと思い
神沼に名刺を手渡した。

「たくさんの人が、ここでDVDを見たんですよね?
その時のお話し、詳しく教えてもらってもいいですか?」


神沼は今までのことを話し始めた。

「これまでに多くの方が当社に来られました。
お一人の方はもちろんですし、お二方や数人で来られた方もおられます。」

「誰もこの場所を怪しんだりしなかったのですか?」

「確かに、初めの内はみなさま戸惑っておられました。
しかし それが自分の人生だとわかれば、もう目をそらすことはできません。」

「みんな、自分の人生を必死に見ていたわけ?」
「はい。食い入るようにご覧になられてました。」


楽しかった思い出、忘れてしまっていた過去、
心に閉じ込めた感情や失った記憶・・
それらをここで改めて確認してもらう場所・・・

抽象的な話しばかりではっきりしない。具体的な話しを聞かせて欲しかった。
神沼は話をすることに、ためらいはないようだった。






例えば・・と、堤友樹(第2話)の話を始める。

妊娠中の美しい奥様と、幸せな日々を過ごしていたごく普通のサラリーマン。
ほんの浮気心のつもりが、
新たな目線から見える真実は大きな衝撃をもたらした。

「DVDに納められた映像は、全て真実です。
みなさまご自分の人生を顧みて、とても貴重な体験をされたようです。」

そう感じているのは、映像を見せる側だけかもしれない・・・
由香はまだ話を掘り下げていく。


「関隆広(第1話)って若い男性、御存知ですよね?
関隆広さんは恋人と実家に帰られたそうです。
彼は母親思いの優しい方だそうです。

関隆広さんはここに来た。そうですよね?」


由香は雑誌社に勤めているとあって、いろんなことを掴んでいた。


「そして、ここで自分の人生を見た。彼は何を知ってしまったんです?」
「疑いもしなかったことが、真実ではないと気付かれたようです。
みなさま、ご自分の人生から目をそらすことができませんので・・」

真実を知った後、関隆広は行方不明になってしまった・・・
走馬灯株式会社の中のことは神沼にしかわからない。


「ご自分の人生を受け入れるかどうかは、その方ご自身の問題ですので・・」

神沼はずいぶん勝手で都合のいい答えを話す。

「関隆広さんはあなたのせいで何かトラブルに巻き込まれたとか?」
由香は神沼にカマをかけてみた。

「映像をご覧になられて、どのような道を選ばれようと
わたくしは一切関与いたしません。」


何が起こったのかを一切話すつもりはないようだ。
この会社の本来の目的は何だろうか?
会社と名前が付いているということは、何等かの形で利益を上げる必要があるはず。

「この世に生を受けてからの全てを顧みていただき、
喜びや悲しみを再確認してもらうだけです。

また、関わりのあった方の人生を見ていただき
一つの目線からは決して見えてこない、真実を確認して頂いております。」


神沼の話していることは一貫していたが、
問いに対する答えにしては、少しずれていた。
由香は少しいら立ちを感じながらも、
欲しい答えに辿り着くまで食らいつこうと思っていた。



「お客様の中には、堤友樹さまのように
これまでに関わりのあった人の人生を見たいという人もいました。」

神沼は、妹尾舞(第4話)、多岐川莉央(第3話)、
柳井研二(第5話)、幸村静香(第6話)を事例として話し始めた。


由香は、他人の人生を見たがる人は趣味が悪いと軽蔑するが、
神沼は、それぞれの事情があることを理解していた。

その中でも雪村静香は、自殺志願者が来社したケースで
赤の他人の二人がサイトを通して知り合って、
自殺をするために一緒に行動していたが、
二人共が別々に、別々の時期に来て映像を見たことで
おかしなことに転がっていく。


「で、結局死ぬ前に人生を見たってわけですか。
走馬灯って名前にぴったりですね。」
はぐらかせて、人生や真実の話を続ける神沼の話しは聞き飽きた。


「自分の人生なんて、自分が一番わかっているでしょ!」

「果たして本当にそうなのでしょうか?
ご自分の人生を本当に知っていると言い切れますか?」

あいまいな記憶や忘れてしまった記憶・・
都合よく書き換えられてしまった過去などは、本当に無いのかを問われた。
こんな風に言われると、少し考えてしまう。


「たとえば、黒瀬由香さま。あなたの腕には古い傷があります。
その傷がなぜついたのか、覚えていますか?」

おもむろに神沼に右腕を掴まれ、手首の辺りに縦に切られた傷を見られてしまう。
かなり古い傷で、そこに傷があったことすら忘れていた程だ・・

「3歳の時に階段から落ちたって、母親が。」
「当時の記憶はございますか?
あなたが9歳の時、一緒にいたご友人が交通事故で亡くなっています。」

初対面の人から聞かされるには、かなりヘビーなことだった。

「事故の時のことを思い出せますか?」
「何が言いたいわけ?あれは、あの子が急に飛び出し出したから・・・」
「それは偽りのない過去ですか?」

過去なんて関係ない、大事なのは今・・・

記憶がえぐりだされる感じがして、追いつめられられた。



「そうですか・・それは失礼いたしました。
真実は全て、そちらのディスクに収められております。」

由香の目の前には“黒瀬由香vol.00~27”が並べられていた。
目の前にある自分の人生を見たい衝動に駆られる。

「ご覧になるかどうかは、あなた次第ですが・・・」
神沼は戸口で一礼をして部屋を出た。

目の前のディスクを再生すれば、すぐにでも本当のことが分かる。
ディスクを手に取るが、“見たい”と思う欲求を振り払い部屋を出ることにした。

「DVDだけ持ってこい!」
上司からこう言われていたことを思い出し、
神沼がセットした“黒瀬由香vol.00”を取りだすと、
ケースに入れて持ち出した。




「今出ました。はい、映像は見ていません。
DVDを手に入れました。すぐに会社に戻ります。」

由香は外に出てから上司に連絡を入れた。
なんとなくディスクが有るのかが心配になり、ケースを開いてみると
中身はカラッポになっていた。


「ご自分の人生を本当に知っていると言い切れますか?
それは、偽りのない過去ですか?」

神沼の言葉を思い出した。
ディスクがないことを言い訳に、もう一度 走馬灯株式会社に戻った。



「お待ちしておりました、黒瀬由香さま。
またのご来社ありがとうございます。

神沼は変わらずに出迎えてくれた。話しかけることなく部屋に入る。

DVDは確かにケースに入れた。落としてはいない・・
ディスクの抜き忘れをチェックしたが、カラだった。
次は思いつかない・・・

本当に無くなっていたのか?そんな疑問にかられてケースを開いて見る。

「ここでしか見れないってこと?」

ケースの中にディスクが収められていた。
ここでしか見られないとわかると、衝動は止められなかった。
ディスクをセットして、少しためらう。


「映像は見るなよ。走馬灯っていうのは普通死ぬ前に見るもんだ。
もし本当に自分の人生を見たら、きっと戻れなくなる・・・」
上司の言葉が頭の中で浮かんだ。

「ご自分の人生を本当に知っていると言い切れますか?
それは偽りのない過去ですか?」
神沼の言葉も頭の中で浮かぶ。

どちらを選ぶかを問われると、自分のことと全く関係がなければすぐに答えられる。
でも、自分のこととなると別だ。
一度抱いてしまった疑惑・・・確認せずにいられない。


再生ボタンを押した・・・・


過去の自分を見ながら、忘れていた楽しかった思い出を再確認する。
思わず笑みがこぼれてしまう。

黒瀬由香の人生は、喜びと笑顔にあふれていた。




人は思い出したいことも、思い出したくないことも、
いろいろ含めて忘れてしまうものだと思います。
反復継続をして、記憶を定着させるために学んだことを覚えようとします。

出来事を覚えているのも、反復して思い出しているからなのかもしれません。
良いことは何度も思い返すことはありませんが、
嫌なことは、よく似た出来事があっただけで思い出してしまいます。

ココが「差」なのかもしれません。


走馬灯株式会社を今まで読んでいただきありがとうございました。
また気に入ったのがあれば、読みに来てください。


表紙絵はまだ出ていませんが、特典ディスクと割引がついてます。


宮口式の考え方さえマスターできれば、この記憶法は使えます。

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